てんかんおよび神経可塑性のモデルであるキンドリングでは、全般発作反復により海馬や嗅球の細胞脱落や神経回路の再構築がおこることが知られている。近年、神経細胞の新生が成体脳でも確認され、新しい神経回路付加に関与することが示されている。本研究では、全般発作反復による海馬および側脳室下帯(SVZ)の神経幹細胞の活性化について、細胞接着因子PSA-NCAMをマーカーとして検討した。 SDラットの左側扁桃核に慢性深部電極をペントバルビタール麻酔下で挿入し、テタヌス刺激を一日一回加えた。全般発作3回群(3GS群)と全般発作30回群(30GS群)(各群n=5)を制作し、対照は無刺激の動物を用いた(n=4)。各群最終刺激の8時間後に麻酔下で断頭し凍結脳切片を作成、PSA-NCAMの免疫組織染色を行った。 海馬歯状回(DG)において、PSA-NCAM陽性細胞数は、3GS群で対照群の約2倍に増加した。30GS群では陽性細胞数はさらに増加したが、3GS群に比べ有意差は認められなかった。陽性細胞は、対照群ではDGの顆粒細胞層深部に限局していた。3GS群で陽性細胞の穎粒細胞層内への移動や陽性神経突起の伸長が若干みられたが、30GS群ではより顕著となった。一方、側脳室下帯のPSA-NCAM陽性細胞数は3GS群で対照群の約4倍に増加し、30GS群では3GS群に比較し有意な増加がみられた。 以上の結果より、てんかん発作反復により、DGやSVZにおける新生神経細胞のmigrationや神経細胞の可塑的変化が誘導されることが示された。これらの変化が、てんかん脳の機能や神経再構築に関与する可能性が示唆された。
|