研究概要 |
【目的】眼咽頭筋ジストロフィー(OPMD)は40歳以降に発症し,眼瞼下垂,嚥下障害,四肢筋力低下を主徴とする常染色体優性疾患で,原因遺伝子はpoly(A)-binding protein nuclear 1(PABPN1;PABP2)である.その発生機序の解明と治療法開発を目的として,OPMDのモデルマウスを作製した.【方法】正常PABPN1 cDNAと(GCG)_9を持つ変異PABPN1 cDNAをぞれぞれ心筋,骨格筋で強く発現するpCAGGS vectorにクローニングし,直鎖状にしたトランスジーンをマウス受精卵にmicroinjectionにて導入した.得られたマウス(TgM)はPCR,サザンブロット解析にて導入遺伝子の有無を確認.その後F1以降のノザンブロット解析にて導入遺伝子の発現解析を行い,ウエスタンブロット法にて蛋白の発現を確認し,TgMラインを樹立した.得られたTgMについては,表現型の検討のため,金網捕まりテストを行った.また,組織学的検討として,ひらめ筋,咽頭筋,外眼筋のH.E.染色,免疫染色,トルイジンブルー染色を行い,筋線維の変化について検討を加え,電顕にて核内封入体の検索を行った.【結果】正常PABPN1 cDNAを発現しているTgMを2ライン,変異PABPNI cDNAを発現しているTgMを3ライン得た.各ラインは外観上の変化は特に認めないが,変異PABPN1蛋白を強く発現しているラインにおいては,体重が野生型(WT)と比較して有意に軽く,金網捕まりテストにて筋力低下を認めた.また,同ラインではH.E.染色において,咽頭筋・外眼筋優位の筋病変,rimmed vacuoleを認め,免疫染色にてPABPN1の核内凝集像を認めた.これはトルイジンブルー染色にて明るい封入体を形成し,電顕ではヒトOPMDに特異的な核内封入体と酷似した像を呈した.【結語】OPMDモデルマウスを世界で最初に確立した.本症の発症機序の解明と治療法の開発に,今後高い有用性を発揮するものと期待される.
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