研究概要 |
ALSにおける運動ニューロン死の仮説の1つとしてapoptosisが注目されているが、この仮説の根拠になったデータの多くは、培養された運動ニューロンや変異SOD1遺伝子を導入したモデルマウスでの所見に基づくものであり、実際のALS患者でapoptosisが生じるか否かを示す所見は乏しい.apoptosisシグナルの古典的伝達経路のうち,カスパーゼカスケードの上流ではapoptosis刺激の種類によりその伝達経路が異なっている.Fasを介するapoptosisでは,リガンドであるFasLが対応する受容体に結合する.一方増殖因子の枯渇や放射線等の刺激により誘発されるapoptosisは,ミトコンドリアを経由してカスパーゼカスケードの活性化を引き起こす.Caspase-3(CPP32)は、apoptosisカスケードの最終実行蛋白である.ALSの運動ニューロン死がapoptosisであるなら、この蛋白の発現が増強していることが予想されるが、その発現をALSにおいて免疫組織化学的に検討した報告は未だ見当たらない.そこで、本年度はAL3剖検例脊髄運動ニューロンにおけるCPP32の発現を免疫組織化学的に検討した.症例は、ALS3例,対照3例(OPLL,心筋梗塞,副腎癌)である.剖検後脊髄を速やかに取り出し,-80℃で凍結保存した後,頚髄(C8)および腰髄(L5)より10μm厚の凍結切片を作成した.一次抗体にはrabbit polyclonalclonal抗CPR32抗体(理研高橋良輔博士御供与)およびmouse monoclonal抗Caspase-3抗体(SantaCruzBiotechnology : sc-7272)を用い,HISTOSTAIN SP-KIT(ZYMED社)によりCaspase-3の発現を検討した.Rabbit polyclonalclonal抗CPP32抗体、mouse monoclonal抗Caspase-3抗体のいずれを用いた検討に於いても頚髄・腰髄ともにALSと対照間でCPP32の明らかな発現は認められず、対照とALSの染色性にも明瞭な差はみられなかった.ALSにおける神経細胞死にapoptosisの実行が関与している可能性を考慮し実験を進めたが,2種類の抗Caspase-3抗体を用いた免疫組織化学的検討でALSの脊髄では対照と比べ明らかな差異はみられなかった.今回の結果からは、ALSの運動ニューロン死が古典的apoptosis伝達経路を介している可能性は否定的であった.
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