研究概要 |
小脳の高次脳機能における役割を明らかにするため,脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration ; SCD)のなかで病変が小脳に限局する皮質小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy ; CCA)患者を対象とし,各種心理機能検査に加え客観的認知機能評価に優れた事象関連電位(event-related potential ; ERP)を用い,その特性を検討した.まず,予備研究としてERP課題,および解析法に関し,基本的検討を行った(田中秀明,平田幸一:臨床神経生理学2002(印刷中)). 対象としてCCA 13例を用い,神経心理機能検査として,慶應版新修正Wisconsinカード分類検査(KWCST)、ウェクスラー成人知能検査(WAIS-R)を用い,ERP課題としては,オドボール係数課題と視覚刺激連続遂行課題(continuous performance task ; CPT)を行った. CCAでは,WAIS-RおよびKWCSTの結果はともに正常者と有意な差はなかった.ERPでは,トポグラフィによる検討を含め,オドボール係数課題における標的刺激,Go刺激のP300の頭皮上電場強度,およびその潜時に明らかな異常はなかったが,抑制的情報処理過程に関与するNo-Go刺激のP300では頭皮上電場強度が有意に低下し,その潜時が延長した.以上のように,本研究では純粋な小脳障害患者において一般的知的機能検査法では異常が検出されないにもかかわらず,ERPにおいて,抑制的情報処理過程に異常を認めた.この結果は,小脳が高次脳機能処理を遂行する上で抑制的情報処理に関与していることを明らかにしたといえる.この背景には小脳から前頭前野への投射系の関与があると考えられ,次年度以降の研究が必要と考えられる.
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