本年も多系統萎縮症の剖検例がなく、前年度の皮質基底核変性症の剖検例についてさらなる検討を加えた。タウ蛋白のリン酸化について、リン酸化タウに対する特異的な抗体であるAT8を用いて免疫染色を行った、その結果Gallyas染色陽性の構造物に類似した形で染色性が認められた。このことから、AT8陽性の構造物はneurofibrillary tangleやastrocytic plaqueに一致する物と考えられた。タウのリン酸化に関わるリン酸化酵素を同定するため、いくつかのリン酸化酵素に対する抗体とAT8を用いた免疫二重染色を施行した。その結果、Cdk5とp38の染色性はリン酸化タウと共存することが観察された。一方、ERK1/2とGSK(glycogen synthase kinase)βに関しては明らかな共存を認めなかった。Cdk5の活性化機構にp35及びp25が関与することが知られているため、抗p35/p25抗体の免疫染色も施行した。その結果、大脳皮質ニューロンでp35/p25の染色性の増強が認められた。このことは、本疾患においてp35/p25がCdk5活性化に関与していることを示唆するものと考えられた。以上まとめると、皮質基底核変性症において、以上タウリン酸化にCdk5とp38が関与していることとCdk5活性化にp35/p25が関与していることの2点が今回の結果から示唆された。
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