研究概要 |
本年度は作成したtransgenic animalを用いて、in vivo、in vitroでの細胞死抑制効果の評価を行った。 神経細胞apoptosis抑制遺伝子と考えられるNAIPの生体内での機能を検討するために、NAIP transgenic mouseを作成し、種々の検討を行った。NAIPは脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子としてpositional cloningにより同定されたものであるが、その後の研究により、内因性のapoptosis抑制タンパクの一つと考えられ、NAIPと共通のdomainを持つIAP familyの一員であることが知られている。今回、TH promoterを用いたNAIP full length transgenic mouse、CAG promotorを用いたfull length NAIP, CAG promotorを用いたNAIP BIR domoainを組み込んだtransgenic mouseを作成し、in vivo、in vitro系でのNAIPの機能につき検討を行なってきた。NAIP発現部位の検討では、TH promoter NAIP transgenic mouseでは嗅球、中脳黒質、副腎髄質に発現をwestern blot、免疫組織科学的に検出することができた。しかし、発現は限られた部位で、また、Transgenic mouse系統によって発現にばらつきが存在するため、primary cultureおよび障害作成には不向きと判断した。CAG promoter NAIP transgenic mouseは、まず、東海大学総合医学研究所発生工学佐藤助教授より提供を受けた、CAG-GFP transgenic mouseを用いて、transgenic mouse内でのCAG promoterの部位的な活性につき検討を行った。CAG promoterは比較的ubiquitousに発現されると考えられていたが、実際のtransgenic mouseを用いた検討では、各臓器に発現のばらつきが認められ、大脳皮質、海馬、小脳、脳幹運動神経核、膵臓、脾臓、腎臓、心臓などで強い発現を認めた。 これらの知見を元に、本年度は、海馬においてmouseの系統によらずNAIPが比較的安定して発現しているため、前脳虚血モデルを作成して、transgenic mouseとnon-transgenic mouseの虚血性細胞障害に対する差異を検討した。結果的には、in vivoでは、NAIPの過剰状態がわずかに生存に悪影響を及ぼすこと(主にapoptosisにより)が判明した。可能性としては、NAIPは発生段階でのapoptosisの制御に関わっていることが想定されており、正常なphenotypeとして生まれたmouseはすでにNAIP過剰状態に対し何らかのcompensationがあることが推測される。この現象はfull length NAIP Transgenic mouseでより顕著で、BIR domainのみを過剰発現させたmouseより明らかな差異となって観察された。一方、full length NAIP transgenic mouse embryoから得られた、embryonic fibroblastをprimary cultureした細胞では、明らかにfull length NAIP transgenic mouseから得られた細胞で、酸化ストレスを生じることが知られているmenadioneに対しnon-transgenicと比較して耐性が認められた。 これらの結果から、NAIPは細胞の生死に深く関わり、細胞の生死の決定因子の一つである可能性が示唆された。
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