研究概要 |
封入体筋炎は、高齢者発症の筋疾患で番頻度が高いといわれ、治療抵抗性である。われわれは、封入体筋炎筋組織では、異常筋線維にMAPキナーゼに属するERKとその基質の核転写因子Elk-1が核周囲の細胞質に密に存在することを証明した。さらにERKを活性化するMEK1/2、不活化するMAPK phosphatases(MKPs)を免疫組織学的に検討したところ、MEK1/2の発現は対照に比し差はなく、MKP-1,2,3のうちMKP-1のみが、ERKと共存する形で、封入体筋炎筋組織の異常筋線維に発現していた。 一方、ストレスによって誘導されるMAPキナーゼであるJNK、p38、またMEK1/2以外のMAPキナーゼ・キナーゼとしてMEK3,4,5を検討した。その結果、いずれも封入体筋炎異常筋線維に有意に発現が亢進しているとの所見は得られなかった。 総合すると、封入体筋炎におけるERKは、細胞質に凝集していること自体が問題であり、MEK1/2を介するERKカスケードの上流での異常は無いものと推定された。 次に、ERKの凝集と、細胞内小器官の関係を2重染色法によって検討した。Golgi装置、小胞体マーカーとERKの2重染色では、ERKの凝集部位と細胞内小器官との関連は認められなかった。さらに他の細胞内小器官マーカーとの関係を検討中である。 現在までの結果、封入体筋炎筋組織におけるERKの異常発現は、活性化ERKが正常に核に移行しないために起こるとして矛盾がない。原因としては、ERKの分子自体、核輸送に関わるシャペロン蛋白、核孔蛋白の異常が推定されるため、次年度はさらにそれらについて検討する。
|