研究概要 |
小胞体ストレスが虚血性神経細胞死やパーキンソン病の黒質変性に関与しているかをORP150TgとKOマウス、および種々の強制発現系を用いて組織化学的、生化学的に検討した。Wtに比して、Tg由来の培養神経細胞は低酸素暴露に対して抵抗性を示し、反対にKOのそれは脆弱性を示した。マウス中大脳動脈閉塞後の脳梗塞面積および体積は、WtやKOに比してTgで有意に縮小していた。この神経保護作用は虚血環境下でのBDNFの分泌促進を介していることが明らかとなった(Nat Med,7:317-313,2001)。また、Tg神経細胞は興奮性アミノ酸に対しても抵抗性を示し、反対にKO神経細胞では細胞内Ca++濃度の上昇が遷延していた。さらにadenovirusによるORP150の過剰発現は砂ネズミ一過性前脳虚血による遅発性神経細胞死を抑制した(J Cereb Blood Flow Metab,22:979-87,2002)。これらの結果は、神経細胞死を引き起こす種々の環境ストレスが小胞体を標的としていることを示している。 次にMPTP投与(30mg/kg,5日間)によるパーキンソンモデルの黒質神経に小胞体ストレスが起こるか否かを検討した。MPTP投与終了後7日目には黒質tyrosine hydroxylase (TH)陽性細胞は約50%に減少し、これらの細胞ではORP150が強く発現しており、黒質ドパミン神経変性の過程で小胞体ストレスが誘導されていることを強く示唆した。そしてMPTP投与後の黒質神経細胞変性過程をTHによる免疫組織化学と線条体ドパミン濃度測定により検討すると、KOマウスではWtに比して早期に神経変性が誘導されること、反対にTgマウスでは変性過程が遷延することが明らかとなった(論文作成中)。以上のことはMPTPによる神経細胞死はミトコンドリアを起源とする細胞死が主座をなすが、同時に小胞体を介する細胞死も関与することを示している。本研究によりパーキンソン病治療のターゲットとして小胞体ストレス軽減対策が有用であり、今後臨床的に応用される可能性が示唆された。
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