ヒト神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞をミトコンドリア呼吸鎖酵素complex Iの阻害剤であるrotenoneで処理し、5日から1週間で細胞死を惹起する慢性モデルを作成した。本モデルにおいては、細胞死に先立って酸化アルデヒドであるacroleinあるいはたんぱくの架橋反応生成物であるdityrosne修飾たんぱくの増加が認められ、その一部は凝集していた。このことは、たんぱくの酸化修飾が高次構造の変化を介して凝集体形成の原因となることを示しており、老化に伴う神経変性疾患、特にパーキンソン病におけるLewy小体形成と細胞死の機序を解明する上で重要な知見と考えられる。さらに、本モデルを用いて細胞内酸化修飾たんぱく蓄積の機序を検討した。酸化修飾たんぱくの生成に関わる活性化酸素種(ROS)の増加は僅かであったのに対して、その分解系であるプロテアソームたんぱくの顕著な失活が認められた。これは、ミトコンドリア機能障害がプロテオアソームの不可逆的な酵素活性低下を引き起こすことを示した世界で初めての研究である。プロテアソーム失活の分子メカニズムを検討したところ、プロテアソーム構成タンパクの酸化修飾が認められた。上記の結果をふまえてパーキンソン病およびアルツハイマー病の患者サンプルの分析を行った。プロテアソーム活性はパーキンソン病患者脳においては線条体で、アルツハイマー病脳においては側頭葉で低下しており疾患において変性をきたす脳の部位に一致していた。また、パーキンソン病患者脳では20Sプロテアソームサブユニットのacrolein化が増加していた。ミトコンドリア障害によるタンパク酸化修飾の増加は、プロテアソームの失活によりパーキンソン病における細胞死に関与している可能性があると考えられた。
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