本年度は主に機能測定システムの開発を行った。単離心筋細胞の張力を測定するためには細胞両端を固定し張力トランスデューサーにつなぐことが必須である。これまでにいくつかの方法が試みられてきたがいずれも高度の習熟を要する、細胞を障害するなどの欠点があった。我々は表面電荷を利用して細胞に付着するカーボンファイバーを改良しその付着力を向上することに成功したため容易にかつ障害を与えることなく細胞を固定することが可能となった。固いファイバーと柔らかいファイバーで両端を固定し収縮による柔らかいファーバーの撓みを検出することで張力を測定した。さらに柔らかいファイバーをピエゾ素子につなぎファイバーの変位をフィードバック信号としてピエゾを操作することによりファイバーの固さを自由に変え無負荷に近い条件での短縮から高い負荷条件下での等尺性収縮までが観察できるようになった。これは単一心筋細胞では初めての報告である。さらに負荷を連続的に変化させていったところ細胞が一回の収縮の間になす外的仕事も連続に変化し中等度の負荷で最大となった。これらは従来心筋片もしくは臓器としての心臓レベルで観察されてきたことであるが細胞レベルの性質を反映しているものであることが確認されたと同時にこのシステムの有用性を示すものと考えられる。次年度以降はさらに細胞内カルシウム濃度の同時測定を行えるようシステムを改良する。一方培養心筋細胞への遺伝子導入についてはアデノウイルスベクターを使って準備中である。
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