心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患は本邦における3大死因の一つに数えられ、その予防、治療法の開発が急務である。 われわれは以前より遺伝子治療の技法を用いた心筋保護療法の開発に従事してきたが、最近、転写因子の一つであるATF3(activated transcriptional factor 3)が心筋においてアポトーシスを抑制することを見いだした。培養心筋細胞にアドリアマイシンを作用させると心筋のアポトーシスが誘発されるが、それにATF3を発現するアデノウィルスベクターを作製し作用させたところ、ATF3の強制発現によりアドリアマイシンによる心筋細胞のアポトーシスが抑制されることが、FACS解析やTUNEL法により示された(論文参照)。 さらにわれわれは、培養心筋細胞における虚血再潅流においてATF3の発現亢進が経時的に認められること、またそれによるアポトーシスをATF3アデノウィルスが抑制することを見いだした。 ATF3の抗アポトーシス作用はc-junなどの転写亢進作用をATF3 homodimerが抑制するために起こると推定し、ゲルシフトアッセイを用いてそのメカニズムに関して検討した。その結果、アポトーシス誘導因子のp53の上流にあるAP-1 like siteにATF3が強く結合されることが示された。このことはc-junなどの転写亢進因子の結合を抑制することによりp53の発現が抑制され、アポトーシスが抑えられることを示唆する。 現在、ラットの心筋虚血モデルにATF3アデノウィルスを作用させ、in vivoにおいて抗アポトーシス効果が有るか否かを検討中である。これらが確認されれば、ATF3アデノウィルスを用いた新しい心筋保護遺伝子治療への道が開けるものと考えられる。
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