研究概要 |
成人心筋細胞は量的な問題からNorthanならびにWestern解析に困難を伴ったため、新生児マウス心から単離した培養心筋細胞を使用した。 昨年度えられた知見は、1)新生児マウス培養心筋細胞にアゴニストFas抗体(FA)と転写阻害剤であるアクチノマイシンD(AD)を低濃度添加することにより特徴的な超微形態、DNA断片化を伴う典型的なアポトーシスが誘導された。2)FAとADを同時に投与されたモデル(FA+AD)において、Fas, Bax, caspase-3のmRNAあるいはタンパクレベルでの過剰発現,c-Jun N-terminal kinase (JNK), caspase-3の活性化,inhibitor of caspase-3 dependent DNase (ICAD)の不活化がみとめられた。これらの現象はFAあるいはAD単独では生じなかった。3)しかしながらJNKの阻害物質であるmitogen-activated protein kinase phosphatase-1 (MKP-1)のmRNAの過発現が、FA単独投与の場合にのみ認められ、この過発現はFA+ADでは抑制された。 上記の知見から、心筋細胞のFas誘導性アポトーシスにおいてはAlternate pathwayが主要経路であること、Fas刺激はJNK活性化を通じてアポトーシスを促進する一方、JNK阻害効果を有するMKP-1をも過剰発現させてアポトーシスを抑制するという相反する作用を有し、AD添加はMKP-1過発現を抑制することでAlternate pathway経由のFas誘導性アポトーシスを促進することが示唆された。MKP-1あるいはJNKのアンチセンスを用いてこれらタンパクの機能的役割を検討したところ、MKP-1抑制により験単独刺激でも心筋細胞のアポトーシスが誘導され、逆にJNKを抑制するとFA+AD刺激によっても心筋細胞アポトーシスは誘導されなかった。一方、今回用いた心筋細胞アポトーシス・モデルではFas下流のClassic pathwayにおけるcaspase-8の活性化がみとめられなかった。すなわち、心筋細胞のFas誘導性アポトーシスではClassic pathwayではなく、Alternate pathwayが重要であることが明らかになった。アポトーシス誘導にADの同時投与が必要な理由は、ADによりAlternate pathwayの要であるJNKを不活化するMKP-1の過発現を抑制するためである。
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