研究概要 |
新生児マウスより単離培養した心筋細胞に対し、アゴニスト抗Fas抗体(FA,1μg/ml)によるFas刺激をAD(0.05μg/ml)存在下で行ったところ(FA+AD)、Fasの過剰発現、Fas下流のシグナル伝達経路のうち"Alternate pathway"に位置するc-Jun N-terminal kinase (JNK)の活性化、Baxの過剰発現、Caspase-3の活性化、Inhibitor of caspase-3 dependent DNase (ICAD)の不活化(すなわちCADの活性化)、そしてDNA断片化ならびにアポトーシスの形態が観察された。FA単独ないしAD単独では上記の変化はみとめられなかった。一方、FA単独刺激により、JNKを含むMitogen-activated protein kinases (MAPKs)を不活化するMitogen-activated protein kinase phosphatase-1(MKP-1)mRNAの過剰発現がみとめられた。このMKP-1 mRNA過剰発現はFA+ADあるいはAD単独では生じなかった。MKP-1に対するアンチセンス・オリゴヌクレオチドで前処理した心筋細胞はFA単独刺激によりアポトーシスに陥った。これに対しJNK1に対するアンチセンスで前処理した心筋細胞はFA+AD刺激によってもアポトーシスに陥らなかった。一方、FA+AD処理によりFas下流の"Classic pathway"に位置するCaspase-8の活性化はみられず、またp38 MAPKやExtracellular signal-regulated kinase (ERK)の活性化もみとめられなかった。以上より、1)FA+ADによる心筋細胞のアポトーシスはJNK, Bax, Caspase-3,CADを介するAlternate pathwayに依存し、これにはFasの過剰発現というポジティブフィードバック機構も含まれる。2)Fas刺激にてMKP-1が過剰発現しJNKの過剰な活性化を抑制する。これがFas単独刺激では心筋細胞のアポトーシスがおこらない理由と考えられた。
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