(1)心筋細胞間コラーゲンは組織Metalloproteinase(MMP)およびその内因性阻害因子Tissue Inhibitor of MMP(TIMP)によりダイナミックに制御されている:ダール食塩感受性ラットの心肥大期(LVH)と心不全期(CHF)との比較を行った。細胞間はコラーゲンネットワークにより緻密な細抱間連結がされているが、CHFへの移行に伴い、コラーゲン産生は転写レベルで減少するのに対して、MMPおよびTIMPは相互に著しく活性化が亢進する。総体としてMMP活性がTIMP活性を上回る(MMP活性亢進が1次的である)ため、コラーゲンネットワークは破壊され、結果として細胞間のスリッピングを招来し、心室リモデリングが進行する。 (2)薬剤としてのTIMP補給は心室リモデリングを抑制しうるか:MMP阻害剤であるONO-4817を用いて、心不全移行期のダールラットに慢性薬物介入を行った。その結果、外因性TIMP投与群において、左室機能・形態が保持され、動物の生命予後も改善することが明らかになった。従って、MMP/TIMP活性に対する薬物介入は心不全にて心室拡大が進行する患者に対する補足的治療法になる可能性が示唆された。ONO-4817を心不全治療薬として特許申請した。 (3)MMP/TIMP活性は組織Renin-Angiotensin系(RAS)により制御されている:ダールラットにおける組織MMP活性とコラーゲンネットワークの制御の上流にRASが重要な役割をしているとの仮説を検証するため、外因性TIMPの効果をAngiotensin II Receptor Blocker(ARB)の存在・非存在下に検討した。その結果、ARBによりRASの阻害が十分であると、外因性TIMPの効果は消失することが示唆された。従って、強力な組織RAS阻害薬により心室リモデリングの大半は抑制できる可能性が高いと判断される。その他、エンドセリンや酸化ストレスとの関係についても現在検討を重ねている。
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