研究概要 |
心筋エネルギー代謝は細胞内ATPレベルに応じた各種のイオンチャネルの協調的調節によって制御されている。特に虚血心筋においてATP感受性Kチャネルが重要であるが、同時に活動電位(心電図におけるQT時間)を決定し、ATPレベルに影響を受ける種々のチャネルの関与も重要である。 まず、遅延型KチャネルのサブユニットであるKCNQ1を培養細胞に過剰発現させた系にてパッチクランプ法で解析した。チロシンキナーゼ、非水解ATP類似体、PTP阻害剤による機能解析で、この蛋白が細胞の膨化とIKs電流増加に直接関与していることが明らかとなった。虚血心筋障害時の細胞膨化とこの現象との関連をさらに検討する必要がある。 臨床的に虚血心筋、特に急性心筋梗塞においては不整脈が重大な問題となる。その解析にはQT延長や運動負荷での心電図変化、薬剤の影響を明確にすることが必要である。遺伝子異常をもつQT延長をモデル検討したところ、Kチャネル異常(LQT1,LQT2)での運動負荷試験での心電図変化(T波のピークから終末までの時間)が遺伝子特異的に決定され突然死の原因として重要であることが判明した。 われわれが新たに発見したNaチャネル異常SCN5A蛋白のL1825A変異(LQT3)を有する患者で、Na電流のピーク密度の低下と顕著な膜電位の異常により徐脈に加えて薬物負荷が生じると潜在的致死的不整脈が顕在化することが判明した。 また新たに発見されたKチャネルコンポーネントであるKCNJ2のPIP結合部位での遺伝子異常でAndersen症候群においてdominant negative効果を発現し重篤な不整脈が生じるメカニズムが明らかとなった。これら潜在的チャネル機能障害に伴う致死的不整脈が虚血心筋においてどのように関与しているかを究明することが今後の課題である。
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