心不全の新しい治療法の開発は急務であるが、その一つとして、骨格筋芽細胞移植が注目されており、虚血性心不全に対しての臨床応用の段階まで来ている。本研究においては、非虚血性慢性不全心に対する骨格筋芽細胞移植の効果をDahl食塩感受性(DS)ラットを用いて検討した。DSラットでは、高血圧を基盤とし、肥大心から不全心への移行が生じる。DSラットの代償性心肥大期(11週齢)において、開胸下に自己骨格筋芽細胞移植を直接針入法で行った。その結果、心不全期である17週齢において、骨格筋芽細胞移植により、心エコー法にて判定した心腔拡大、収縮能低下が抑制され、さらにカテーテル法にて求めた左室dP/dtの低下、及び左室拡張末期圧の上昇が軽減しており、自己骨格筋芽細胞移植が、肥大心から不全心への移行を抑制することが明らかになった。つぎに、心筋細胞に対し肥大作用、ならびに保護作用を有すサイトカインであるcardiotrophin-1(CT-1)の遺伝子をレトロウイルスを用い、あらかじめ骨格筋芽細胞に遺伝子導入し、その細胞を移植する研究を行った。CT-1は移植された骨格筋芽細胞滑格筋細胞に長期にわたり発現し、骨格筋芽細胞単独移植に比べ、CT-1発現骨格筋芽細胞移植により、心機能が更に良好に保持されることが判明した。そしてCT-1遺伝子導入により、移植細胞周囲の心筋細胞が肥大し、心不全の出現と密接に関係するエンドセリンの増加が抑制されていた。本研究により、骨格筋芽細胞移植は非虚血性の不全心に対しても有効な治療法となりうることが明らかになると共に、CT-1などの細胞保護作用を有す因子の遺伝子導入と併用することにより、細胞移植の効果を増強する新たな治療法開発の可能性が明らかになった。
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