研究概要 |
最近、心不全時には筋小胞体(SR)のCa^<2+>放出チャネルであるリアノジン受容体(RyR)から、その調節蛋白FKBP12.6が解離することにより、RyRから異常なCa^<2+>leakが生じ、収縮、拡張障害を惹起しうること(Yano et. al. Cirsulation 102:2131-2136,2000)、また心不全時にFKBPがRyRから解離する機序として、Marxらにより、交感神経過緊張→β受容体の刺激過多→[cAMP依存性蛋白キナーゼ(PKA)による]RyRの過りン酸化という経路が明らかにされた(Marx SO, et al. Cell 101:365-376,2000)。このRyRからの異常なCa^<2+> leakを抑制すれぱ、心不全時の拡張期の細胞内Ca^<2+>過負荷を防止し、収縮、拡張不全を改善することが予想される。 この点に関し、我々は虚血再環流時のCa^<2+>過負荷を抑制するとされる新しい心保護薬のJTV519が上述のRyRからの異常なCa^<2+> leal制するか?またその結果、心機能を改善し心不全発現を抑制するかについて検討した。 ビーグル犬を用いて、4週間の高頻度右室ぺーシング(250/分)により心不全モデルを作成、ぺーシング開始直後よりJTV519を4週間慢性投与し左室圧、左室内径を測定、薬剤非投与群と比較検討した。ぺーシング開始直後よりJTV519を4週間慢性投与ししたところ、薬剤非投与群に比し、JTV519投与群では左室拡張期圧ー内径関係の右方シフトを抑制し(左室リモデリング抑制)、左室圧最大dP/dtを増加(収縮性改善)、左室拡張期圧降下の時定数Tauを短縮させた(弛緩能改善)。さらにRyRの構造変化(site-directed fluorescent labeling法により測定)を是正し、心筋筋小胞体からの異常なCa^<2+> leakをほぼ完全に抑制した。またFKBP12.6とRyRの結合比率(正常1:3.6,不全心1:1.1)は有意に増加した(JTV519投与群;1:3.6)。さらに薬剤投与群では、薬剤非投与群でみられたRyRの過りン酸化が著明に抑制されていた。このようにJTV519はFKBP12.6-RyR連関障害を是正し、RyRからの異常なCa^<2+> leakを抑制することにより心不全の発現を著明に抑制したことから、RyRのチャンネル安定化に基づくCa^<2+> leakの抑制は全く新しい心不全治療戦略となりうることが示された。
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