Growth arresst and DNA damage inducible gene (GADD) 153は種々のストレス、特に小胞体に対するストレスに応じて発現・誘導され、細胞周期を停止させ、アポトーシスに関与していることが知られている。私たちは血管平滑筋細胞において、過酸化水素などの酸化ストレスに対してGADD153遺伝子が発現誘導され、その発現誘導は、核内転写因子NF1によって抑制されることを報告した。本研究ではさらGADD153のVSMCにおける働きをin vivoにおいて明らかにする目的で、平滑筋特異的プロモータを利用したトランスジェニックラットの作製を開始した。4回の遺伝子導入で合計72匹のラットが誕生した。導入遺伝子の確認はPCR法を用い、72匹中4匹に遺伝子導入が確認された、Tgラットの外観に特に異常は認められなかった。F1およびF2ラットの作製後、遺伝子発現量をノーザンブロット法、蛋白発現量の解析をウエスタンブロット法により解析した。そして4系統のすべての解析を終了したが、GADD153遺伝子が過剰発現されているはずの大動脈において、GADD153遺伝子および蛋白の発現は極めて低く、wild typeラットとその発現に大きな差を認めなかった。私たちは以前VSMCのアポトーシスの誘導とともに、GADD153遺伝子および蛋白が発現誘導されること、さらにVSMCにGADD153を過剰発現させた場合、アポトーシスを誘導することを報告した。今回の研究でラット4匹にGADD153遺伝子導入が確認されたが、大動脈におけるGADD153発現は、wild typeラットと差を認めなかった。また、同じプロモータを利用しCCAAT/enhancer-binding protein (C/EBP) δのTgラットを作製したが、一回の遺伝子導入で14匹の遺伝子導入に成功した。以上のことから、GADD153遺伝子が導入されかつGADD153蛋白を過剰に発現しているラットは、胎生致死である可能性が示唆される。このことは、以前の私たちの検討と合致するものであった。残念ながらGADD153を過剰発現したラットを得ることはできなかったが、生体におけるGADD153の働きを推測する上でも、有用な研究であったと思われる。
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