本研究では、血管平滑筋細胞と内皮細胞のイオンチャネルの変化について、高血圧ラットのSHR-SPとそのコントロールラットであるWKYを用いて検討を行った。血管平滑筋では、高血圧の進展とともに電位依存性K電流が減少した。また、高血圧発症以降も、アンジオテンシン受容体拮抗薬による降圧治療により一部改善したため、血圧の持続やレニンアンジオテンシン系の関与がこの変化を生じさせているものと考えられた。薬理学的検討では4-aminopyridine感受性電流が主に変化していた。定量的PCRでは、主にKv2.1が減少しており、Kv1.2、Kv1.5、Kv9.2には変化はみられなかった。以上の結果より、Kv2.1の減少が電位依存性K電流減少のひとつの原因と考えられた。血管内皮においても、高血圧の進展とともに電位依存性K電流が減少していた。この成分も4-aminopyridineに感受性があった。免疫染色では主にKv1.5の染色性が認められ、SHR-SPでWKYに比較して減少していた。また、大動脈リング標本を用いて、内皮依存性弛緩の検討を行った。SHR-SPはWKYに比較してAchに対する弛緩反応が減弱しており、superoxide dismutaseの投与により一部改善した。WKYの弛緩反応は4-aminopyridineの存在下で減弱しsuperoxide dismutaseの存在で一部改善した。以上より、血管内皮細胞の脱分極は活性酸素の産生増加を介して血管内皮依存性弛緩反応を減弱するものと考えられた。アンジオテンシンIIは、細胞膜表面の受容体に作用するが、細胞内にアンジオテンシンIIやその結合部位が存在すると報告されている。血管平滑筋細胞内にアンジオテンシンIIを注入し、カルシウムチャネルに及ぼす影響を検討した。細胞内にアンジオテンシンIIを注入すると、カルシウム電流が増加した。この変化は、タイプ1受容体拮抗薬、Cキナーゼ、G蛋白、フォスフォリパーゼCの阻害薬で阻害された。以上より、血管平滑筋細胞の細胞内にはアンジオテンシンタイプ1受容体様の結合蛋白が存在し、G蛋白、フォスフォリパーゼC、Cキナーゼの活性化を介してカルシウムチャネルの活性に変化を与えるものと考えられた。
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