近年の研究により低分子量であるRhoおよびその標的蛋白であるRho-kinaseが細胞骨格の整合性、血管平滑筋細胞収縮など様々な細胞機能に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。このRho/Rho-kinase系は中枢神経系にも存在し、スパインの維持や軸索の成長、神経伝達物質の放出に関与していることが示されている。我々は、中枢性血圧調節機序にこの系が関与していることを示した。正常血圧ラット(WKY)および自然発症高血圧ラット(SHR)の脳幹部延髄孤束核(NTS)に特異的Rho-kinase阻害薬であるY-27632を微量注入すると降圧、心拍数減少、交感神経活動の減少を観察した。これらの低下の程度はSHRにおいてWKYに比べると有意に大きかった。また、無麻酔覚醒下における慢性実験としてアデノウイルスをベクターとしてdominant-negative Rho-kinase遺伝子をNTS内へ感染させると、やはり降圧、心拍数減少、尿中ノルエピネフリン排泄量の減少を観察した。この低下の程度もSHRにおいてWKYに比べて大きかった。さらに、RhoA膜分画およびRho-kinaseの活性はWKYに比べSHRで亢進していた。以上の成績は、NTSにおけるRho/Rho-kinase系が交感神経系を介して血圧調節に関与していること、この系の活性化が高血圧の中枢性機序に関与している可能性を示唆するものである(2002年国際高血圧学会で発表、論文投稿中)。 さらに、我々は別の高血圧モデルである慢性的に一酸化窒素合成酵素を阻害したラットにおいてもRho/Rho-kinase系の活性化が血圧上昇に関与している成績も得た(2002年アメリカ心臓協会学術集会で発表)。 また、動脈圧受容器反射による心拍数の調節におけるNTS内Rho/Rho-kinase系の重要性も観察している。すなわち、Rho-kinaseを抑制すると動脈圧受容器反射による心拍数調節のゲインが大きくなり、高血圧モデルでは減弱しているこの調節系が改善することを見い出している。
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