虚血性心疾患などの血管疾患にとって酸化ストレスは危険因子のひとつであり、心血管疾患の病態において重要な役割を担う血管内皮機能障害の一因でもある。glutathione(GSH)は最も重要な細胞内の抗酸化物質であり、その合成経路における律速酵素はグルタミン酸システインリガーゼglutamate-cysteine ligase(GCL)である。GCLは触媒作用を有するGCL catalytic subunit(GCLC)と調節作用を有するGCL modifier subunit:(GCLM)からなる二量体である。生体に酸化ストレスが加わるとGSH合成の為にGCL遺伝子の転写活性が上がり、そのことが血管内皮機能障害に対する防御機構の一つとして作用している。今回我々は冠動脈内皮機能や心筋梗塞にGCLの遺伝子多型が関わっているかを検証することを目的とした。 その結果、我々はGCLCプロモーター領域に未報告の遺伝子多型(-129C/T)を発見した。ヒト内皮細胞ではH_2O_2に反応した-129T遺伝子多型のプロモーター活性は-129C遺伝子型に比べ50 60%に低下していた。また-129T遺伝子型を有する症例では-129C遺伝子型を有する症例に比べ内皮依存性の冠動脈弛緩反応が有意に低下していた。心筋梗塞群では-129T遺伝子型を有する頻度が対象者群に比べ明らかに高く、古典的な冠動脈危険因子と比較しても独立した危険因子であった。さらにGCLMプロモーターにも遺伝子多型を見出し、この遺伝子多型が心筋梗塞の独立した危険因子であることを明らかにした。 結論としてGCLCおよびGCLM遺伝子のプロモーター領域の遺伝子多型によって酸化ストレスに対するGCLの発現は低下し、これらの遺伝子多型が冠動脈内皮機能の低下と心筋梗塞の病態に関連している可能性があることが明らかになった。
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