研究概要 |
アルドステロンの副腎外合成系が最近注目されており、我々はヒト不全心および高血圧心からもアルドステロンが分泌されることを示した。そして、心臓アルドステロンの合成がACE阻害薬にて抑制されることを示した。ヒト不全心からのアルドステロン産生に関しては更に詳細な検討を行った。心不全および非心不全の剖検心から組織を抽出し、アルドステロン合成酵素遺伝子CYP11B2遺伝子の発現量を検討した。CYP11B2は大変微量である為、通常のreal-time PCRでは検出困難であり、新たに同方法の変法を考案してCYP11B2遺伝子発現量を検討した。その結果、不全心では、非不全心に比べて有意に同酵素の遺伝子発現は亢進していた。 次に、アルドステロン合成に対するナトリウム利尿ペプチド(NP)の抑制系の検討を行った。仔ラット培養心筋にて、NPの心臓アルドステロン合成抑制作用を検討した。内因性のNPを抑制する目的でGC-A受容体の選択的拮抗薬であるHS142-1を前投与して、アンジオテンシンIIにて刺激した。その結果、CYP11B2遺伝子の発現は亢進した。また、ANP, BNPを臨床で使用する濃度を培養細胞に添加しても同様の反応が認められた。以上より、内因性および外因性NPは心臓CYP11B2遺伝子発現を有意に抑制していることが示された。 アルドステロンは、仔ラット心筋細胞培養系にてACE遺伝子の発現促進作用があることを報告した。更にその系において、アルドステロン濃度を変えて検討を加えた。その結果、生体内で生じている組織アルドステロンの濃度において、MRのみならずGRを介してACEの遺伝子発現に関わっている可能性が示唆された。 以上、不全心からのアルドステロンの合成とその役割に関して研究を行い、renin-angiotensin-aldosterone系の中で、アンジオテンシンII以外でもアルドステロンが直接に心血管系に悪影響を及ぼしている可能性が強く示唆され、パラダイムシフトの様相を呈してきた。
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