研究概要 |
本課題は、血管内皮細胞機能不全を引き起こす酸化LDLのリン脂質成分lysophosphatidylcholine(LPC)によるシグナル伝達系をCa^<2+>動態と活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)を中心に解明することを目的としている。我々はLPC刺激が極めて迅速に(1分以内)ゲラニルゲラニル化の阻害を介し血管内皮細胞のRhoA活性化を誘導しRhoA活性化が細胞内Ca^<2+>動員と密接に関連していること、さらにLPCにて非選択的カチオン電流(non selective cation current, NSC)が誘導されることを報告している(Yokoyama K, Ishibashi T et al. Circulation 2002;105:962-967)。 本年度は、LPC刺激によるROS産生とCa^<2+>流入との関連性を中心に検討した。細胞は培養ヒト大動脈内皮細胞を用い、膜電流の測定にはwhole cellパッチクランプ法を用いた。細胞内H_2O_2の測定は蛍光色素carboxy-dichlorodihydrofluorescein diacetate(CDCFH-DA)を用いた。細胞外Ca^<2+>存在下においてLPCによる細胞内Ca^<2+>上昇をcatalase(H_2O_2スカベンジャー)はSOD(O^<2->スカベンジャー)よりも有意に抑制したが、細胞外Ca^<2+>非存在下においてはcatalaseとSODのCa^<2+>濃度抑制効果に有意差は認めなかった。このことはH_2O_2が細胞膜からのCa^<2+>流入に関与していることを示唆した。CatalaseによるLPC刺激細胞内Ca^<2+>濃度上昇に対する抑制効果を明らかにするためにパッチクランプを施行したところ、catalaseはLPCにより誘導されるNSCを抑制した。しかし、SODにはその抑制効果を認めなかった。実際にLPC刺激1分以内に内皮細胞から産生されるH_2O_2産生も確認された。そして、H_2O_2それ自体もNSCを誘導した。さらに、LPC誘導NSCは三量体G蛋白質Giの阻害薬にて抑制された。これらのことは、LPC刺激によるCa^<2+>流入にNSCを介しH_2O_2が関与し、そのシグナル系にGiも関わっていることを示している。これらの結果は本年の日本循環器学会総会にて発表予定であり、現在論文作成に取りかかっている。
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