冠動脈硬化症の発症と進展に性ホルモンが深く関与していると推測されているが、そのメカニズムの解明は不十分である。本研究の目的は、女性ホルモン-ホルモン受容体系における異常が新たな冠危険因子であるとの仮説の検証である。 <分子遺伝学的検討> エストロゲン受容体α遺伝子における特定のハプロタイプが疾患発症年齢の独立した予測因子であった(第66回日本循環器学会学術集会発表)。また米国の複数の大学との共同研究として欧米人との比較検討を行った(近日中に成績公表を予定)。 冠動脈硬化症治療薬であるスタチンに対する反応性におよぼすエストロゲン受容体α遺伝子多型の影響をタフツ大学との共同研究により検討した結果、同薬剤によるLDLおよびHDLコレステロールの変化が、同遺伝子の特定ハプロタイプと有意に連鎖していることを見出した。性ホルモン受容体の遺伝素因が冠動脈硬化症に対する反応性を規定することをはじめて見出した点で画期的である(投稿中)。 <末梢血性ホルモンの高感度測定> 高感度測定法を用いて早発性冠動脈硬化症男性患者の末梢血性ホルモン値を測定した。その結果、安定型狭心症患者群では冠動脈狭窄を有さない年齢マッチ対照群に比し、遊離テストステロン(FT)がやや低く、エストラジオール(HsE2)は有意に高値であった(第67回日本循環器学会学術集会発表)。対象を全年齢層の男性379例に拡大したところ、FTおよびHsE2とも両群間で逆方向に軽度の差を認めたが、統計学的有意には至らなかった。しかし、両者の比(FT/HsE2)は、対照群に対し患者群では有意に低値であり、この関係は古典的冠危険因子からは独立していた(Coronary Artery Disease in press)。性ホルモン個々の絶対値ではなく、両者のバランスが冠動脈硬化症に関係する可能性が示唆する新しい知見と考えられた。
|