動脈硬化の発症は、単球が血管壁内へ遊走しそこでマクロファージへ分化することにより始まる。これらはサイトカイン・ケモカインネットワークの存在が不可欠であるが、その分子機序は不明の点が多い。この細胞機能に関わる個々の分子を同定しその作用様式を追求する事は、動脈硬化発症の詳細な理解と新たな治療法開発につながる。一方、我々は既にインテグリン刺激に依り強く活性化を受けるチロシンキナーゼPYK2のノックアウトマウスを作成し、既にその単球・マクロファージの遊走能・サイトカイン産生能に著しい障害があることを見いだした。そこで今回動脈硬化モデルマウスであるApoEノックアウトマウスと交配しダブルノックアウトマウスを作成しその動脈硬化病変の修飾の状態を検討することで、PYK2の動脈硬化発症に対する役割の解明を通して、その分子機序の全体像に迫りたい。 研究の初年度(平成13年度)においてはApoE/PYK2ダブルノックアウトマウスを得る事に成功した。現在PYK2-/-ApoE+/-とPYK2-/-ApoE-/-マウスを交配しており、それによりPYK2-/-ApoE-/-及び対照としてのPYK2-/-ApoE+/-マウスを一定数確保し、動脈硬化病変の解析を開始する。又、予備実験として1.25%高コレステロール食餌を使用してApoEノックアウトマウスの胸部大動脈に動脈硬化病変が出現する事も確認した。更にPYK2欠損マウスから腹腔マクロファージを単離し、細胞遊走及びサイトカイン産生機能につながる細胞内情報伝達系におけるPYK2の役割について解析を進めた。その結果PYK2がsrc型チロシンキナーゼと会合、活性化し、rho型低分子量G蛋白質活性や細胞内Ca濃度に影響を与え、最終的に細胞遊走、サイトカイン産生につながる事がわかった。
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