研究概要 |
【目的】酸素運搬性やレオロジーの異なる潅流液と心筋微小潅流分布との関連性を毛細血管床レベルにおいて評価する. 【方法】潅流液には血液,人工赤血球+血液,およびタイロード溶液を利用した.人工赤血球にはテルモ社製Neo Red Cell (NRC,粒子径=200nm)を利用した.NRCのヘモグロビン濃度は血液より低値(6 vs. 12g/dl)であるが,酸素親和性はヒト赤血球より低親和性にシフト(P_<50>O_2=40-45 torr)されているために優れた酸素運搬能力を示す.ラット摘出心を対象に,血液,NRC+血液潅流では交叉潅流モデルを用いて潅流液を酸素化し,タイロード溶液については酸素バブリングにて心筋潅流を行った.各潅流液での潅流中に血流マーカーであるHDMI(2μCi)を心筋内ボーラス投与し,心停止後,心表面に平行に心筋スライスを作製し(10μm厚,28枚/心筋),デジタルラジオグラフィによってスライス内のHDMI分布を測定した(空間分解能100μm).潅流分布の評価には,局所血流の不均一性の指標である変動係数(CV[%]=局所HDMI密度の標準偏差/HDMI密度の平均)を用いた. 【結果及び考察】潅流量,左室発生圧は,NRC+血液潅流心では5.4±0.4ml/min/g,109±6mmHg,血液潅流心では2.8±0.1ml/min/g,108±15mmHg,タイロード潅流心では13.6±2.7ml/min/g,107±18mmHgであった.なお,NRC+血液潅流ではヘマトクリット,リポソームの体積率は各々20±1,9±2%であった.局所心筋潅流のバラツキCVはタイロード溶液潅流心で最も低く,次いでNRC+血液潅流心,血液潅流心で最も大きかった. NRCは赤血球径の1/40であり,微小血管分岐や毛細血管流れで生じる潅流不均一化は低減する.さらに低粘性であることから潅流量は増え,供給される酸素の絶対量も増加する.NRCの代謝改善機能は酸素低親和性による酸素運搬機能の向上に加えて,局所臓器潅流の均等化に起因すると考えられた.
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