循環器領域でのキニン産生系の重要性はカリクレイン過剰発現やキニン受容体ノックアウトしたマウスで確認されている。また、ヒトでも最近ACE阻害薬の降圧作用や心血管疾患予後改善作用に局所産生キニンの分解阻害が挙げられている。我々は犬心筋から組織カリクレイン様酵素の精製を行った結果、従来のものとは異なる新規の酵素を精製した。この新規酵素の病態生化学的な意義を明確にするために、本年度はヒトの心臓由来のcDNAライブラリーを用いて新規カリクレイン様酵素の存在の有無を検討した。数種類のヒト組織カリクレインの酵素学的構造上重要な共通部分のアミノ酸構成から、それに相当するディジェネレートプライマーを数種類作成した。ディジェネラシーの低い(特異性の高い)ディジェネレートプライマーを、数種類の組み合わせで、PCRを行なった。その後に、それぞれに適合したディジェネレートプライマーを用してtouch down法でnested PCRを施行した。そのproductをvectorにライゲーションした後にDNAシークエンスを行なった。その結果、あるプライマーの組み合わせでは膵臓のcDNAライブラリーからは既知のカリクレインのDNAを得たが、心臓のcDNAライブラリーからは得られなかった。しかしながら、別のプライマーの組み合わせで、心臓のcDNAライブラリーからは新規カリクレインのDNAの一部をサブクローニングすることが出来た。この結果より、我々が犬の心臓で見出した新規の組織カリクレインがヒト心臓にも存在することが示唆された。これらを解明することによりヒトにおけるACE阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬との相違、特に臓器保護作用におけるキニン増強作用の意義や心血管でのキニン産生系酵素の発現調節など新知見が得られると確信する。
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