今日の高齢化社会を迎え、心房細動はその罹患率の高さとともに脳梗塞の原因疾患として注目されている。しかし、今日までこの不整脈に対しては試行錯誤的な治療が行われるのみで根本的解決には到っていない。特に心房細動はその発生自体が、心房細動の持続を容易にするという自己増殖的な特徴があり、このリモデリングの存在がその治療を困難としている。本研究ではこのリモデリング機構をイオンチャネルの遺伝子発現という視点から物質的に明らかにし、心房細動治療の向上に寄与すべく行われた。心房筋に発現するすべてのイオンチャネルをクローニングした後、mRNA発現を同時解析可能とするmultiple ribonuclease protection assay法を開発した。ラット心房細動擬似モデルを作成し、1)電位依存性カリウムチャネル:Kv1.5 mRNA増加、Kv4.2およびKv4.3 mRNA低下、2)過分極誘発性陽イオンチャネル:HCN4 mRNA低下、3)カルシウムチャネル:α2δ2 mRNA低下、が心房細動早期より生化学的に生じることを明らかにした。このような解析の中で、イオンチャネルの発現量は予想外にダイナミックに変動していたことに注目し、心房細動を生じやすくする諸因子とイオンチャネルの発現機構を解析したところ、1)Kv1.5およびKv4.2チャネルの発現はphasicに変化し、概日リズムを有していること、2)ストレスにより分泌されるコルチゾールはKv1.5、Kir2.2のupregulationを生じること、3)アルコールはアセトアルデヒドを介してKv1.5およびHCN4チャネルのupregulationを生じること、など種々の因子に対応した多様なイオンチャネルリモデリングが生じることを明らかとなった。このようなリモデリングの多様性を考慮した治療法の開発は今後の心房細動治療において急務となろう。
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