多施設研究により、小児の非侵襲的H.pylori診断法として尿素呼気試験および便中抗原検査の高い信頼性を立証した。そして、これら非侵襲的検査法と従来の生検法を併用して対象症例のH.pylori感染診断を行った。H.pylori胃炎の病理学的検討(n=196)では、H.pyloriは胃前庭部および胃体部粘膜に単核球と好中球の浸潤を惹起し、さらに感染小児の胃前庭部と胃体部粘膜に高率に(各51.9%、34.8%)萎縮を起こすことを明らかにした。この小児期にみられる胃粘膜萎縮が本邦成人における高率な胃癌発生に関連すると推測される。H.pylori感染と胃炎の関連性は、感染群における血清pepsinogen IとII値の上昇およびI/II比の低下などにより、血清学的にも確認された。 次に、小児期の胃粘膜萎縮の発生機序に関して免疫病理学的検討(n=28)を行った。H.pyloriは有意に粘膜上皮の細胞増殖(Ki-67免疫染色、P<0.001)およびアポトーシス(ssDNA染色およびTUNEL法、p<0.001)を亢進させた。また、除菌前と比較して、除菌の成功(n=10)は細胞増殖およびアポトーシスを有意に低下させた(共に、P<0.0l)。H.pylori感染が惹起する粘膜上皮における細胞増殖およびアポトーシスが小児の胃粘膜萎縮の発生に重要であることが示唆された。 また、内視鏡的ガストリン試験を用いて、H.pylori感染が小児の胃酸分泌動態に及ぼす影響を検討した(n=32)。H.pylori感染は胃酸分泌を亢進させ(P<0.05)、さらにH.pylori陽性の胃炎患者(平均、3.01 mEq/10 min)と比較して十二指腸潰瘍患者(平均、6.56 mEq/10 min)において高い酸分泌を誘導した(P<0.01)。小児の十二指腸潰瘍の病態において、H.pylori感染による胃酸分泌亢進が重要であると考えられた。
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