生体では、未熟なナイーブT細胞は種々の抗原に暴露されることによって成熟する。その一部は活性化T細胞としてサイトカインなどを介して直接作用し、残りはメモリーT細胞となって生体内を循環しながら将来の抗原暴露に備えている。ケモカインレセプターのひとつであるCCR7の発現がT細胞の成熟段階と関連する可能性が示され、本研究では小児期を通しての発現を活性化マーカーのひとつであるCD45RO発現との関係で検討した。CD4+T細胞はCD45RO-CCR7+、+、CD45RO+CCR7-集団に、またCD8+T細胞はCD45RO-CCR7+、CD45RO-CCR7-、CD45RO+CCR7-集団に別れ、それぞれのサイトカイン産生を検討すると各集団間でその産生量は大きく異なり、CCR7ならびにCD45ROを指標としてT細胞の成熟過程を検討することの妥当性が明らかになった。次に、乳幼児から成人までの変化を検討したところ、T細胞の成熟が年齢に応じてダイナミックに変化していることが明らかになった。さらに、小児期早期に発症することが多いアレルギー疾患患児と健常児におけるCCR7の発現を比較検討すると、いくつかの年齢群においてCCR7に基づくサブセットの比率に有意差を認めた。アレルギー疾患の重要な病態のひとつとして、T細胞のTh1/Th2バランスがTh2優位な状態に傾いていることが知られている。CCR7発現とTh1/Th2細胞の関係をケモカインレセプターのCXCR3とCCR4をそれぞれのマーカーとして検討すると、Th1細胞ならびにTh2細胞におけるエフェクター細胞とメモリー細胞の割合は、それぞれ4:6であることが明らかになった。さらに、個体のTh1/Th2バランスの発達に関与する単球のIL-12産生能を年齢的に検討すると、低年齢ほどその産生が少なく学童期以上ではアレルギー疾患患者の産生能が健常者に比して有意に低値であることが明らかになった。以上のことより、小児期におけるT細胞の成熟はTh1/Th2細胞のバランスと共にダイナミックに変化していることが明らかとなり、その成熟過程の偏移がアレルギー疾患の発症ならびに病態に深く関与している可能性が示され、今後これらケモカインレセプターやサイトカイン産生能をマーカーとした病態評価が可能になることが期待される。
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