本年度は、新生仔ハムスターへのibotenateの脳内接種により皮質形成異常の実験モデルを確立するとともに、これを用いてvimentin(放射状グリアのマーカー)、reelin(Cajar-Retzius(CR)細胞により合成・分泌される細胞外基質蛋白)およびcalretinin(CR細胞などに発現するCa結合蛋白)の各免疫組織染色を行い、脳形成異常の成立機序について考察した。ibotenateの接種により得られた主な組織変化は、皮質の陥入(MG)、脳軟膜グリア限界膜をこえた脳表の異所性灰白質(LGH)、皮質下に形成された結節状の異所性灰白質(SNH)の3つであった。これらは各々病理学的には、microgyria、leptomeningeal glioneuronal heterotopiaおよびsubcortical nodular heterotopiaに類似していた。 vimentinは、脳室帯における母細胞およびこれより脳表面に達する多数の放射状グリアに陽性で、MGの周囲およびLGHの内部にもvimentin陽性線維が観察された。Reelinはmarginal zoneにおいて散在性かつ均等に分布するCR細胞と思われる細胞に陽性で、MGおよびLGHを形成した異常皮質ではCR細胞の局所的な集積が認められた。Calretininの免疫組織活性はmarginal zone、subplateおよびpiriform cortexの線維や細胞に主として観察された。これらに加え、MGを形成する異常皮質やSNH内にはcalretinin陽性の線維や細胞が局所的に増加していた。本実験における、ibotenateによって惹起された異常皮質や異所性灰白質におけるreelinおよびcalretininの局所的な過剰発現は、接線方向への神経細胞の遊走異常の存在を示唆するとともに、Ca依存性の組織障害に対する防御機構の関与を推測させるものである。
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