(1)妊娠10.5日のWistar系母ラットを屠殺し全胚培養を開始し、実体顕微鏡下で経時的に観察し心膜の発生時期を確認した。培養開始12時間(胎生11日相当)から横中隔(transverse septum、横隔膜の原基)よりシート状の心膜が出現し心臓を覆い始めるのが観察された。培養開始36時間(胎生12日相当)後に心臓はほぼ完全に心膜で覆われ、その後、心膜と心臓が時間とともに接近していった。心筋では肉柱の発達が目立ってくるが、心筋層の厚さには大きな変化はみられなかった。 (2)妊娠10.5日のWistar系母ラットにビスダイアミン200mgを胃ゾンデにて注入、投与終了後3時間後に屠殺して全胚培養を開始した。この胚では心膜の出現が遅く、さらに培養開始後36時間でも心臓は心膜で完全に覆われず、最終的に一部欠損しているのがみられた。その後の観察では、心膜で覆われた部位でも心膜と心筋の接近が確認できなかった。また、これらの心臓では心室や流出路の拡大を伴っていた。肉柱の発達や心筋層の厚さはコントロールと明らかな差を認めなかった。 (3)妊娠10.5日のWistar系母ラットにビスダイアミン200mgを胃ゾンデにて投与し、冠循環が始まる妊娠14.5日から17.5日に母ラットを屠殺して胎仔を摘出した。また摘出1時間前に母ラットにBrdUを腹腔内投与し胎仔心のDNA合成を観察した。この結果、ビスダイアミンを投与しないコントロールにおいて妊娠15.5日頃から肉柱領域に比して心室壁でのBrdUの取り込みの増加が認められたのに対して、ビスダイアミン投与群では心筋の菲薄化が著しく、心筋壁でのBrdUの取り込みの減少が認められた。 以上の結果から、ビスダイアミンは心膜の発生とその心筋への接近を遅らせて冠循環の成立が遅延し、冠循環で栄養されるべき心筋細胞も発達しないことが示唆された。
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