先天性好中球減少症では約90%に好中球エラスターゼ遺伝子のヘテロの変異がみられることが報告されたが、本症の病態との関係は明らかでない。本研究では骨髄顆粒球系細胞の増殖・分化に伴った顆粒内蛋白の遺伝子発現の変化を正常コントロールと先天性好中球減少症で比較し、エラスターゼ遺伝子変異との関係を検討した。4例の先天性好中球減少症のうち2例に好中球エラスターゼ遺伝子の変異を認めた。骨髄顆粒系前駆細胞はFACSでCD34陽性/G-CSF受容体陽性細胞を純化した。本疾患ではG-CSF受容体陽性細胞に選択的に増殖・分化異常が存在することをG-CSFをはじめとした造血因子との無血清培養で確認した。患者のCD34陽性/G-CSF受容体陽性細胞では増殖・分化が正常コントロールに比して有意に低下を示したが、G-CSF受容体陰性細胞の増殖は正常と患者の間に差は認められなかった。純化細胞の増殖・分化に伴った、一次顆粒蛋白である好中球エラスターゼ、ミエロブラスチン、ペルオキシダーゼと二次顆粒の代表であるラクトフェリンの遺伝子発現は定量的PCR法で経時的に測定した。一次顆粒蛋白の遺伝子発現は患者では正常に比して有意な低下が認められたが、ラクトフェリンの遺伝子発現は正常と患者で差はみられなかった。一次顆粒の出現は前骨髄球が中心であることより、培養細胞を再度FACSでCD33の発現から純化し、一次顆粒蛋白遺伝子発現を検討したが、患者ではその発現が著明に低下していた。また、患者の新鮮骨髄細胞より、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球分画を純化し、その細胞での一次顆粒蛋白の遺伝子発現を検討したが、同様に正常に比して低下をしていた。これらの結果は一次顆粒蛋白の遺伝子発現が本症の病態に密接に関わっていることを示すものと推測された。現在、これら一次顆粒蛋白の遺伝子発現に共通した遺伝子部位の解析とその転写機構についての検討を行っており、患者での分子生物学的異常を明らかとする予定である。
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