研究概要 |
我々は感染を繰り返し、反復性口内炎、日光過敏症、精神発達遅延を示し、敗血症と心筋症で亡くなった15歳の女児患者を経験し、非筋肉アクチンの一つである変異β-アクチン症であることを明らかにした(PNAS1999)。また、この変異β-アクチンはプロフィリンとの結合部位に変異が認められ、その結果細胞機能としてドミナントネガディブに働いていること、患者の好巾球の走化性と.スーパーオキシサイド産生能低下を確認している。そこで、アクチン蛋白を含む細胞骨格異常がよくその臨床症状と、走化能異常など細胞機能異常が類似していることから、Rac2異常、actin dysfunction syndromeと変異β-アクチン症を含めて、好中球細胞骨格異常症という概念(Neutrophil cytoskeletal disease.Int J Hematol.74:119-24,2001)を提案した。これらの疾患は非常に稀であるが、上記のような共通した機能異常やドミナントネガディブ作用があることから、興味がもたれている。 基礎実験としては、培養細胞への遺伝子導入実験を試みたが、蛋白への翻訳効率が悪く、阻害効果を出せる程の変異アクチン蛋白を発現できなかった。そこで、変異アクチンKnock-In Mouseを作成するため、ES細胞への導入後選択培養を行ったが、制限酵素とPCR法により確認できるような変異アクチンKnock In ESクローンは得られていない。変異β-アクチン症発見者の一人である現在東海大学総合科学技術研究所の山崎剛講師と再度変異アクチンKnoch In mouseを作製すベく共同実験を行っている。 以上の過程で得た一連の遺伝子導入技術を用いて、この疾患でみられた活性酸素産生機構に関与する以下の分子を明らかにした。 1)慢性肉芽腫症の遺伝子解析の過程で、活性酸素産生の関わる分子にはその相同蛋白が広く生体に存在することが分かってきた。特に膜蛋白であるgp91-phoxは今ではNOX(NADPH oxidase) familyとして5の遺伝子とその機能が知られるようになってきた。さらに、活性酸素産生の調節蛋白として知られるp47-,p67-phoxの新たな相同蛋白p41-,p51-NOXのクローニングと機能解析を行った。(JBC 2003 in press) 2)慢性肉芽腫症の遺伝子治療の開発:gp91-phox欠損型慢性肉芽腫症の遺伝子治療用ベクターの開発を目指して、多剤耐性遺伝子(MDR)を組み込んだpHa-MDR-IRES-gp91レトロウイルスを作製した。ラット骨髄細胞に遺伝子導入し、ヒト特異的gp91-phoxを認識する7D5モノクローナル抗体を用いて、末梢血好中球の20〜30%に遺伝子導入出来ることを確認した。同時にオンコビンを用いてin vivo selectionが可能なことも証明した。(J Gene Med 2003 in press)
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