札幌市の過去20年間にわたるRSウイルス感染症の分子疫学を、RSウイルスの中で非常に変異に富むとされる、large glycoprotein(G)遺伝子における変異を解析することにより明らかにした。方法としては、PCF-RFLP法や、直接シークエンス法を用いた。サブグループA株流行においては、個々のシーズンの流行株には優位流行株があること、そしてそれが2〜3年毎に他の株に交替していく現象を本邦において初めて明らかにした。更に欧米の野外株を加えた検討で、サブグループA株の流行には地域集積性よりも、時間集積性のあることを示した。これらの現象は、欧米や韓国における研究においても明らかとなってきているが、RSウイルスの強い伝播力と集団の密度、そしてRSウイルスの免疫原性や集団免疫の蓄積など様々な要因が関連し合って生み出している現象と考えられる。RSウイルスサブグループB株の分子疫学の解析では、A株にみられたような世界的な時間集積性を明らかにすることはできなかった。この現象は伝染力、伝播のスピードがA株に比べ劣ることを示唆するものと考えられる。一方、1980〜1986年に渡る6シーズンの分離株においては、遺伝子進化を思わせる直線的な変異を初めて明らかにしたが、これは同一地区で流行を繰り返していく際に、herd immunityをすり抜けるためのウイルス側の戦術と考えられる。RSウイルスの分子疫学の特徴として、いくつか株が同時に存在し、それぞれが進化を遂げていくことがあげられるが、これはインフルエンザB型の変異の様子と似ているといえる。
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