結節性硬化症(TS)の皮質結節と局所性皮質異形成(FCD)は皮質層構造の乱れ、異常巨細胞の存在など共通の組織病理学的特徴を有するため、その異同がしばしば議論される。われわれは今年度、免疫病理学的手法による両者の明瞭な鑑別を目的とし、手術・剖検で採取されたTS8症例、FCD13症例の大脳病変組織を材料として、免疫染色、Westernブロッティングによる比較検討を行った。 まずTSの原因遺伝子の産物hamartin、tuberinの発現を免疫染色により検討したところ、TSでは正常サイズの神経細胞、グリア細胞の免疫反応性が低下していた。異常巨細胞はより強い染色性を示したが、強陽性のものは少なかった。一方、FCDにおける正常サイズの神経細胞、グリア細胞の免疫反応性は対照例と同等であった。またFCDの異常巨細胞にはtuberin強陽性のものが多かった。WesternブロッティングでもTS病変にはhamartin、tuberin発現レベルの低下したものが多く、FCD病変では正常に保たれていた。しかしTSの中でも症例・病変により発現レベルのばらつきが大きく、免疫染色のみで個々の症例につき、TSとFCDを確実に鑑別することは困難だった。 つぎに神経細胞移動を制御する蛋白doublecortinについて検討した結果、TSではdoublecortin陽性の異常巨細胞がFCDより多い傾向があった。しかしTSでも組織学的構築異常の乏しい病変では陽性細胞数が少なく、逆にFCD(grade III)で組織学的異常の強い例は陽性細胞が多いなど、例外もあり、免疫染色のみでTSかFCDかを確実には診断できなかった。 以上のように、TSとFCDを群全体で比較した場合は明確な差があるものの、症例・病変により発現レベルのばらつきが大きいため、免疫病理学的所見のみにもとづいて個々の症例を確実に鑑別することはできなかった。
|