結節性硬化症と大脳皮質異形成における病変形成とてんかん原性

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13670831
• 研究機関: 自治医科大学
• 研究代表者: 水口 雅 自治医科大学, 医学部, 助教授 (20209753)
• キーワード: 結節性硬化症 / 皮質結節 / 局所性皮質異形成 / 異常巨細胞 / 免疫組織化学 / Fukutin / 神経細胞移動障害 / 福山型先天性筋ジストロフィー

研究概要

結節性硬化症(TS)の皮質結節と局所性皮質異形成(FCD)は、臨床的にてんかんの焦点となりやすい点で共通するのみならず、病理組織学的にもよく似た諸特徴を示す。このため両者の病因・病態生理の異同は重要な研究テーマである。
TS、FCDのいずれにおいても、異常巨細胞の存在とともに、皮質層構造の乱れが最も特徴的な所見である。これらの発生学的背景には神経・グリア細胞の分化の異常とともに、移動(migration)の障害があると考えられる。本研究においては今年度、神経細胞移動の調節に主要な役割を演ずるFukutin蛋白のTS、FCDにおける発現を研究した。
Fukutin蛋白は福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)の原因遺伝子の産物で、胎児脳に豊富に発現するが、出生後は発現量が激減する。FCMDにおいてはFukutin蛋白の発現低下のため、神経細胞が所定の位置(大脳の皮質板)に定着せずovermigrationしてしまう結果、大脳皮質奇形(多小脳回)を生ずる。本研究では、自家作製した抗Fukutin抗体を用いてTS、FCD患者の大脳皮質病変(てんかん手術のため摘出された組織)を免疫染色した。その結果、TSやFCDの病変部では一部の巨細胞にFukutin免疫反応性が認められた。これに対し、同年齢の正常対照脳組織ではFukutin発現は認められなかった。Fukutin免疫反応を示す巨細胞の多寡や染色性の強弱は、巨細胞の形質(cytomegalic neuronかballoon cellか)、部位(皮質か皮質下か)とは相関しなかった。最近、Fukutinは筋の細胞膜の構造蛋白の糖鎖修飾に関わる酵素ではないかと疑われており、われわれも正常組織におけるFukutinとαジストログリカンとの局在の一致を認めている。今後はTS、FCDにおけるαジストログリカンの局在をFukutinとの関連を含めて検討する予定である。

研究成果

• [文献書誌] Mizuguchi, M., et al.: "Loss of doublecortin in heterotopic graymatter of a fetus with subcortical laminar heherotopia"Neurology. 59(1). 143-144 (2002)
• [文献書誌] Wei, J., et al.: "Altered cellular distribution of tuberin and glucocorticoid receptor in sporadic fundic gland polyps"Modern Pathology. 15(8). 862-869 (2002)
• [文献書誌] Mizuguchi, M., et al.: "Doublecortin immunoreactivityin giant cells of tuberous sclerosis and focal cortical dysplasia"Acta Neuropathologica. 104(4). 418-424 (2002)
• [文献書誌] Wei J, et al.: "Tuberous sclerosis in a 19-week fetus : Immunohistochemical and molecularstudy of hamartin and tuberin"Pediatric and Developmental Pathology. 5(5). 448-464 (2002)
• [文献書誌] 水口雅: "[脳外科医に必要な神経病理の基礎(1)]脳の発生・発達とその障害"脳神経外科. 30(7). 768-777 (2002)
• [文献書誌] 水口雅: "脳の形成異常をきたす遺伝子"脳の科学. 24(8). 761-768 (2002)