結節性硬化症(tuberous sclerosis、以下TSC)は、TSC1(染色体9q34)ないしTSC2(染色体16p13.3)遺伝子変異に起因する常染色体性優性遺伝疾患である。TSC患者はいずれかのTSC遺伝子の一方のアレルに生殖細胞変異を有する。TSC腎などに生じる腫瘍では、他方のアレルが、しばしば体細胞変異により失われている(loss of heterozygosity (LOH))。いっぽうTSC大脳に多発する皮質結節は、てんかんや知的障害をひきおこし、臨床的に重要な病変であるが、LOHの頻度は低いと言われ、その形成機序は明らかでない。われわれは本年度、TSC皮質結節の病態を分子病理学的に解明する目的で、そのモデル動物Ekerラットの皮質結節におけるloss of heterozygosity (LOH)を検討した。 第一に病変部の個々の細胞をマイクロダイセクションにより組織切片から採取し、DNAを抽出して、nested PCR法により解析した。その結果、巨大神経細胞においては正常大神経細胞と同様、野生型Tsc2遺伝子アレルが残存していたが、腎細胞癌細胞ではEker変異型アレルのみとなっていた。第二にTsc2遺伝子産物tuberinに対する抗体を用いた免疫染色を行ったところ、巨大神経細胞ではtuberin免疫反応が残存しているのに対し、腎細胞癌細胞では完全に失われていた。 これらの結果から、腎細胞癌と異なり皮質結節ではLOHの生じていないことが、明確に示され、両病変の形成される分子メカニズムの異なることが明らかとなった。
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