結節性硬化症(TS)の皮質結節と局所性皮質異形成(FCD)は、臨床的にてんかんの焦点となりやすい点で共通するのみならず、病理組織学的にもよく似た諸特徴を示す。われわれは手術・剖検で採取された大脳病変組織を材料として、両者の異同を免疫病理学的に検討した。まずTSの原因遺伝子の産物hamartin、tuberinの発現を観察したところ、TSでは正常サイズの神経・グリア細胞の免疫反応性が低下しており、異常巨細胞にも強陽性のものは少なかった。一方、FCDにおける正常サイズの神経・グリア細胞の免疫反応性は対照例と同等で、異常巨細胞にはtuberin強陽性のものが多かった。つぎに神経細胞移動を制御する蛋白doublecortin、fukutinについて検討した結果、TS、FCDの異常巨細胞の一部が陽性に染色され、その数はTSがFCDより多い傾向があった。しかし症例・病変・細胞により発現レベルのばらつきが大きく、免疫染色のみでTSとFCDを確実に鑑別することは困難だった。 TSの腎、心などに発生する腫瘍においては、TSC1またはTSC2遺伝子のどちらかの座位にloss of heterozygosity(LOH)が高頻度に生じている。これに対しTS大脳の皮質結節では、LOHの頻度は低いことが従来より言われており、その形成機序は明らかでなかった。われわれはTSのモデル動物Ekerラットの皮質結節から個々の異常巨細胞をマイクロダイセクションにより組織切片から採取し、DNAを抽出して、nested PCR法によりTsc2遺伝子のLOHを解析した。その結果、巨大神経細胞においては正常大神経細胞と同様、野生型アレルが残存していたが、腎細胞癌細胞ではEker変異型アレルのみとなっていた。これらの結果から、皮質結節の形成される分子メカニズムは腎細胞癌と異なることが明らかとなった。
|