研究概要 |
本研究で明らかにすることは,1.川崎病遠隔期の冠動脈病変において血管新生が発現しているのか,2.血管新生の発現は冠動脈病変の進展や退縮とどのように関連しているのか,3.血管新生の病態より川崎病冠動脈病変に対して遺伝子治療か可能であるのか,であった.本年度はこのうちの血管新生発現の有無および冠動脈病変との関連について検討を行った. まず血管新生因子の発現状況を検討するために血漿中の血管新生因子であるvascular endothelial growth factor(VEGF)とhepatocyte growth factor(HGF)を心カテーテル検査中に血管内の数ヶ所で測定し,その分布状況を検討した.さらに急性期からVEGF, HGFレベルを前方視的に検討し,冠動脈所見と血管新生因子の変動を比較検討した.さらに選択的冠動脈造影を行い,冠動脈病変の程度を確認した後,血管内エコーをもちいて内膜肥厚の程度を検討した.これらの検討により,川崎病急性期には冠動脈病変の炎症発生時期と同様の時期にVEGF産生が亢進しており,またその上昇程度は冠動脈病変合併例において有意に高いことが確認された.血中VEGFレベルは冠静脈洞で高い傾向にあるものの,動脈レベルとの有意差は認められず冠血流のみに規定されているものではないことが示唆された.HGFは川崎病急性期においても明らかな産生亢進を認めず,同じ血管新生因子としてもVEGFとは違った発現を示していることが示唆された.冠動脈病変の進展状況の指標として冠動脈血管内皮機能を測定し,この結果と血管新生因子との相関の検討では,冠動脈内皮機能と冠動脈由来VEGF, HGFレベルとの関連は確認されず,血管新生の発現と冠動脈病変進展(特に血管内皮機能)との関連は今のところ証明できなかった.来年度以降,これら病変についてフォローアップデーターの検討を行う予定である.
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