本年度は、培養表皮作製系の改良実験ならびに表皮・毛髪をターゲットとした再生医工学の最重要ツールである表皮幹細胞に関する基礎的解析を行った。 (1)毛髪幹細胞は毛髪のバルジ領域に存在することが長期標識残留細胞を検出する実験から示唆されていた。我々はブロモデオキシウリジンにより核DNAを標識した細胞がUV-A波長光の照射に対して光感受性になることを利用し、マウス毛髪バルジ領域の長期標識残留細胞を特異的に死滅させる技術の開発に成功した。標識残留細胞の死滅は毛髪更新に重大な欠陥を引き起こすことが明らかとなり、その毛髪再生における重要性が明らかとなった。(亀田Genes Cells 2002) (2)表皮幹細胞は表皮基底層に存在していると予想されているが、その分布パターンについては未知の部分が多い。我々はマウス耳表皮を実験材料に用いて培養実験とレトロウイルス感染による細胞系譜追跡実験を行い、その解明を目指した。両実験から表皮基底層における幹細胞の密度は従来の説よりもかなり低いことが示唆された。またレトロウイルス感染実験から表皮内には幹細胞を核とした表皮細胞更新単位が存在することが確認された。以上のデータをまとめ表皮における幹細胞システムに関する仮説を提案した(亀田Exp Cell Res 2003)。 (3)培養表皮作製におけるWnt-3発現フィーダ細胞の効果について検討を行った。培養表皮作製期間の短縮は観察されなかったが、Wnt-3シグナルが表皮細胞の細胞形態に大きく影響することが明らかとなった。本実験系はがんの浸潤転移におけるEMT現象の解明に有用である可能性が考えられる
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