カルシウム・スイッチを用いて培養ケラチノサイトの分化を誘導し、分化の前後でのGATA-3の発現をウエスタン・ブロット法により比較した。その結果、GATA-3の発現はカルシウム・スイッチにより2.5倍に増加した。すなわち、ケラチノサイトの分化によりGATA-3の発現は増強されることが明らかとなった。さらにGATA-3 cDNAを強発現する発現ベクターとロリクリンのプロモーター領域を組み込んだルシフェラーゼ・レポーターをコ・トランスフェクトしたところ、コントロールと比較してGATA-3は3倍程度にロリクリンの転写を促進することが明らかとなった。また、TATA-boxの20~30bp上流に存在するAP-1結合領域とSp1/3結合領域が協調してロリクリンの組織特異的発現・分化特異的発現を制御していることが明らかとなった。すなわち、分化した角化細胞ではAP-1構成分子の内fosとSp1が相互作用してロリクリンの転写をドライヴするのに対し、未分化角化細胞ではfos/Sp1ではなくjun/Sp3が相互作用し、ロリクリンの転写を抑制していると考えられた。このAP-1-Sp1/3複合体にGATA3がどのように関与するかをGATA3とAP-1、Sp1を同時に強発現するルシフェラーゼ・アッセイにより解析したところ、GATA3とfos、Sp1は相乗的にロリクリンの転写をドライヴすることが明らかとなった。さらに、GATA3とAP-1、Sp1の物理的結合性をGST-pull down assayにて解析したところ、GATA3、fos、jun、Sp1、Sp3は各々物理的に結合し得ることがわかった。以上を総合すると、未分化角化細胞では、ロリクリン遺伝子転写調節領域にjun/Sp3が作用してロリクリンの転写を抑制しているが、分化角化細胞(表皮顆粒層)では、ロリクリン遺伝子転写調節領域にはfos/Sp1/GATA3が複合体を形成して作用し、ロリクリンの転写をドライブするモデルが提示された。
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