BODIPY脂質(BODIPYセラミド)を用いて、各分化段階の皮膚角化細胞における脂質代謝と転送を調べた。0℃の条件下では、細胞膜だけをBODIPY脂質でラベルできた。細胞膜をラベルするには、30分間の培養で充分であり、培地中のBODIPY脂質の濃度に比例して細胞膜がラベルされた。また、0℃ではBODIPYセラミドは他の脂質に代謝されなかった。37℃ではBODIPY脂質を細胞内に取り込ませて代謝させることができた。BODIPYセラミドの一部はBODIPYグルコシルセラミドとBODIPYスフィンゴミエリンに代謝され、定量可能であった。高濃度のアルブミンを用いて細胞膜のBODIPY脂質を除去すると、細胞内(おそらくゴルジ装置や層板顆粒内)に存在するBODIPY脂質を同定できた。これらの細胞内小疱に皮膚のバリアー機能を担う角層細胞間脂質の成分とする脂質が充満しているので、ある条件下でこれらの脂質を細胞外に分泌させる(exocytosis)ことが可能になれば、最も自然な形で皮膚のバリアー機能を回復・維持できる。無カルシウム培地、高濃度カルシウム培地、epidermal growth factor添加培地、keratinocyte growth factor添加培地、レチノイン酸添加培地を用いて細胞内小疱に存在するBODIPY脂質のexocytosisを試みたが、培地中に存在するBODIPY脂質の量が少なく、定量できなかった。しかし、いずれの条件下でも無カルシウム培地のBODIPY脂質細胞外分泌量の方が、高濃度カルシウム培地のそれらよりも多い印象を受けた。皮膚のバリアー機能を担う脂質は、外的物質に関係なく、無カルシウム状況下で細胞外に分泌されやすいといえるかもしれない。以上のように、BODIPY脂質は皮膚角化細胞における脂質代謝と転送を研究するのに非常に有用である。さらなる追加実験が必要であるが、BODIPY脂質を用いたendocytosisやexocytosisの研究は、各種乾燥性皮膚疾患に対する新たな治療法を導くものとして価値がある。
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