研究概要 |
皮膚に生じる悪性度の高い腫瘍である悪性黒色腫の細胞をもちいて腫瘍の活動性に与えるras変異の役割について研究をした。ras蛋白はmitogen-activated protein kinaseの上流においてシグナル伝達に関与し下流に位置する多くのシグナル伝達物質の活性化を促し細胞機能に重要な影響を与える。臨床的には,この変異が引き起こす生物学的活性化が腫瘍細胞の活動性に強く関与していることが示されている。ras変異の認められない低活動性のin situ悪性黒色腫から得られた細胞株に変異ras遺伝子を組み込んだものは親株に比し著しく高いras蛋白活性をもつことが分かっている。Ras細胞株は親株に比べ,高い細胞増殖能,高いポスポリパーゼA2(cPLA2)活性を持ち,無刺激状態においても高い走化活性を持つことを証明し、ras変異はMM細胞に対して常に最大活性を維持させるように働いていることを示した。現在まで知られていなかったinsulin-like growth factor-1(IGF-1)およびトロンビンがMM細胞のみでなくヒト正常メラノサイトに対しても既知の数種類の因子(endothelin-1,basic fibroblast stimulating factorなど)よりも強く走化因子として働くことを見出した。さらにシグナル伝達機構はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼによりプロスタグランヂンの生成にいたる系とリポキシゲナーゼによりハイドロキシエイコサテトラマノイン酸に至る系に分岐する。変異ras遺伝子の組み込みMMではシクロオキシゲナーゼをブロックは走化に影響しないが、リポキシゲナーゼをブロックしてハイドロキシエイコサテトラマノイン酸の生成を抑制すると走化が抑制されることを見いだした。
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