研究概要 |
我々はケラチン繊維が核膜と結合する際に介在する蛋白の単離、解析を本研究の目的とした。酵母細胞の核内において2つの蛋白質間の相互作用を検出する手法であるツーハイブリッド法を用い、ケラチン線維の頭部あるいは尾部領域と相互結合すると考えられる数種の蛋白質のcDNA断片を単離し、この中より核膜に局在することが予想される蛋白質に注目し、その性質を細胞生物学的に解析した。 オクリビンと名付けたこの新規のタンパク質は、疎水性の強い約109kDalの蛋白で、1つのシグナルペプチドと8個の核移行シグナルを有する。タイプIケラチン、K14,K16,K18の頭部領域と特異的に結合するが、タイプIIケラチンとは結合しないことが酵母ツーハイブリッド法と、大腸菌内で合成した融合蛋白を用いたpull-down実験で確認された。オクリビンの中央部分に相当する合成ペプチドをラットの皮下に免疫することでオクリビン蛋白に特異的な血清を作成した。得られた抗血清は、COS細胞に強制発現させたオクリビン蛋白を特異的に認識することから、オクリビン抗体として以降の実験に用いた。この抗体を用いた免疫細胞染色により培養表皮角化細胞では、オクリビン蛋白は核外膜から核膜周囲にかけて局在し、核膜近傍においてケラチン線維と共存する像が免疫染色や免疫電顕による観察で確認された。細胞分裂後に核膜が成熟する過程を、核膜の裏打ち蛋白であるラミンの染色性と比較し検討したところ、ラミンの染色性により占える核膜の成熟度が進むにつれ、オクリビンは核膜周辺の局在性を高めケラチンとの共存を強め、かつケラチン線維が核膜を覆いくるむ傾向が確認された。上記の性格を有する核膜表面に存在しケラチン線維と核膜との結合に介在する新規オクリビン蛋白の単離・同定は、核膜を介したケラチン線維の機能・シグナル伝達という全く新しい突破口となる貴重な知見である。
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