研究概要 |
我々は組織選択的に遺伝子をノックアウトする手技(Cre-loxP法)を用いて,EGFなどの刺激伝達に関与するシグナル伝達分子であるStat3を表皮特異的にノックアウトしたマウスを作成し,本分子の表皮角化細胞における機能を明らかにした。このStat3ノックアウトマウスは正常に誕生し,皮膚および毛包などの付属器の発生に異常は見られないが,皮膚創傷治癒の遅延および第2毛周期の欠落を認めた。さらにこのマウスは加齢とともに皮膚に自然発症的に潰瘍を形成し,脱毛をきたす。培養細胞を用いた実験によりこのマウスの角化細胞は成長因子依存性の遊走能に障害が認められた一方,増殖能は正常に保たれていた。以上の結果により,Stat3は魚化細胞の遊走に関わるシグナルの伝遼に関与し,毛包成長や創傷治癒などに必須の分子であることを示唆した。このStat3-/-角化細胞におけるfocal adheslon蛋白群につき詳細な検討を加えた結果adaptor分子であるp130casが過リン酸化していることがWestern blotで明らかになった。Stat3-adenovirus vectorのtransfectionで細胞遊走のみならず、リン酸化p130casの正常化を認めたことより、角化細胞のStat3はp130casのリン酸化turnoverに関与して細胞遊走を制御している可能性を示した。さらに我々は野生型マウス同様,Stat3-/-マウスにおいても抜毛やPMA塗布により毛包成長が起こることを見出し,毛包成長は少なくともStat3依存性および非依存性の2つの機構が存在することを示す。培養細胞の遊走実験より,Stat3非依存性の角化細胞遊走はProtein kinase C(PKC)の活性化に依存して起こること,さらにStat3依存性,非依存性いずれの遊走もPhosopholnositide 3-kinase(PI3K)シグナル経路活性化の共存が必要であることが明らかになった。同様に,抜毛による毛包成長誘導もPKC依存性シグナル経路が関与している可能性がある。Stat3はanti-apoptosls分子としても重要なはたらきをしている事実が知られているため、Stat3破壊マウスに紫外線UVBを照射したところ、正常対照群に比べ著明なsunburn cellの形成をみた。この緒果は,表皮角化細胞のStat3が紫外線ストレスによる細胞死に抵抗するanti-apoptoticな働きを担っていることを示唆した。現在Stat3の下流のanti-apoptotic molecule, Bcl-xLの表皮角化細胞特異的ノックアウトマウスを作製し詳細に解析中である。
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