悪性黒色腫の癌化進展におけるホスホリパーゼD(PHD)の役割を解明する目的で、ヒト末端黒子型および表在拡大型悪性黒色腫組織において、PLDとその活性化因子であるプロテインキナーゼCα分子種(PKCα)の発現を調べた。末端黒子型では腫瘍の進展に伴いPLD、PKCαの発現は増強したが、表在拡大型では腫瘍の進展にかかわらず両者はともに強く発現されていた。末端黒子型でも水平浸潤型でもPLD、PKCαの発現は同調的に変化していることから、両者が細胞内で結合していることを推定し、数種のヒト悪性黒色細胞腫株を用いて免疫沈降実験をおこなったところ、両蛋白は細胞内で結合していることが明らかとなった。ヒト悪性黒色細胞腫株HM3KOを用いて両蛋白の結合がPLDの活性に及ぼす影響を解析したところ、PKCαとの結合によりPLD活性は刺激非存在下でも上昇することを見い出した。酵素活性を欠失させた変異PKCαを用いた実験より、PKCαの結合によるPLD活性化にはPKCαの酵素活性が不要であることを示した。悪性黒色腫におけるPLD活性化の意義を検討するために、PLDの活性化が悪性黒色腫の浸潤能に与える影響をin vitroでみたところ、PLDの活性化は黒色腫の浸潤能を亢進させることを示された。以上の結果より、悪性黒色腫の癌化進展においてPKCαとの蛋白-蛋白結合によるPLDの刺激非依存性活性化は転移能亢進において重要な役割を果たしていると推定された。
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