研究概要 |
創傷治癒機転において、角化細胞のアポトーシスと分化は非常に重要な役割を果たしていると考えられる。ASK1は角化細胞のアポトーシスと分化いずれも制御することが明らかとなっており、創傷治癒を統括している可能性がある。さらに、アポトーシスを制御しているPI3 kinaseの経路も同時に創傷治癒機転に関与している可能性がある。正常ヒト角化細胞を培養し、損傷を加えJNKとp38 MAP kinaseの活性を測定した。その結果、損傷により角化細胞のJNK, p38が活性化されることが明らかとなり、ASK1-JNK, p38の経路が活性化されている可能性が考えられた。さらに、細菌感染の創傷治癒過程におよぼす影響を検討するために、培養ヒト角化細胞に、黄色ブドウ球菌を加えて、抗菌ペプチドの発現を検討した。その結果、黄色ブドウ球菌の接触により、角化細胞は抗菌ペプチドを産生することが明らかとなり、創傷治癒過程においても、重要な役割を果たしていると考えられた。次いで、角化細胞の分化をPI3 kinaseが制御しているかどうか検討した。分化誘導による分化マーカーの発現を検討したところ、K1,K10 mRNAが誘導された。そして、この分化誘導は、活性型のPI3 kinaseの導入により、抑制された。すなわち、PI3 kinaseはアポトーシスおよび分化を制御することにより、皮膚の創傷治癒機転に関与していると考えられる。さらに、マウス背部皮膚に皮膚欠損部を作成した。創部皮膚を経時的に採取し、HE標本を作製し、創傷治癒過程を確認した。さらに、創傷辺縁部角化細胞にアポトーシスが起こっていることをTUNEL法にて確認した。創傷部辺縁でASK1の発現がみられた。以上のごとく、創傷治癒過程には、ASK1による表皮角化細胞の分化・アポトーシスの機構が深く関与していることが明らかとなった。
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