研究概要 |
メラノサイトの初期の発生に関わる因子のうちSCF/KIT情報伝達系はメラノサイトが神経管から皮膚への移動の時期に必須であること、ET3がこの時期のKIT陽性のメラノサイト前駆細胞を爆発的に増殖させる結果、メラノサイトが全身に供給されると考えられている。またMITFはチロシナーゼやtyrosinase rerated protein 1(TYRP1)の転写因子であるが、MITFのミュータントはメラノサイトが生存しないため白色毛であり、MITFの重要な役割は他にもある可能性がある。 今回の研究ではMitf^<mi-ew>マウスの神経冠の培養系にメラノサイト分化に関与する因子を添加し、MITFの機能を補える因子があるか検討した。交配により得られたMITFのミュータントの胎仔数が十分得られなかったので、検討できた因子はまだ少ないが、まず、メラノサイト分化の初期に重要な因子であるSCFおよびエンドセリン3(ET3)を使用し、次に内因性の因子ではないが強力なメラノサイトの分化増殖因子であるTPAとコレラトキシン(CT)についても検討した。 結果:SCF、ET3、SCF+ET3、TPA+CTを添加培養した神経冠細胞中にはこの培養系での初期のメラノサイトのマーカーとなるKIT陽性細胞は出現しなかった。ところが、SCF+ET3にTPAとCTをすべて添加すると、弱いがKIT陽性細胞が持続的に観察された。これまでにこのマウスからメラノサイトを培養できた報告はなく、またMITFの機能をTPAとCTが補える事が示唆されたことは、今後MITFの機能の解析のために非常に興味ある結果が得られた。但し、実験できた個体数が少ないので、再現性を確認するため、追加実験の必要がある。 前年度の本研究で樹立したKIT陰性の細胞株を用いてKIT発現に対するTPAとCTの影響を検討した。 結果:添加後3日頃からKITの発現が認められ、至適濃度はTPA単独では1nM,CTは0.05nM,TPA+CTでは相乗効果は無かった。今後はKIT発現に関与する内因性因子の検索を行う。また、この結果を上記のMitf^<mi-ew>マウスの神経冠の培養系に応用し、メラノサイトの分化を回復させることに成功したことは、メラノサイトの幼若なcell lineを樹立して得られた一つの成果といえる。
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