研究概要 |
蛋白質のArg残基をCit残基に変換する酵素はペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PADと略記)と呼ばれ、細胞の終末分化に関与していることが示唆されている.同酵素には組織分布が異なる3つのアイソタイプ(Type I, II, III)が存在することが知られているが、我々は最近新規なアイソタイプ(PAD T4)がラット毛嚢細胞に存在することを見出した.PAD T4は毛細胞の分化に重要な機能を果たしていることが推測されることから、本研究をより実用的な研究に発展させるためにはヒト毛細胞のPAD T4のcDNAクローニングが不可欠と判断し、以下に述べる研究を行いその成果を得た. まず、手術摘出ヒト頭皮組織から毛嚢組織を分離し、Y.Okanoらの初代培養法により培養後、poly(A)+mRNAを調製、次いでrandom primer法により一本鎖cDNAを合成した.これを鋳型としてラットPAD T4の塩基配列に基づくホモログRT-PCR法により翻訳領域のcDNAを増幅した.つぎに、未決定の3'並びに5'非翻訳領域についてはRACE法によりcDNAを増幅することが出来、これら増幅cDNAをT-Plasmidにクローニングし、得られたクローンの塩基配列を分析した.その結果、ヒトPAD T4 cDNAは26bpの5'非翻訳、2018bpの翻訳、245bpの3'非翻訳領域から構成されていることが明らかとなった.本酵素は663アミノ酸残基、分子量は74,094、等電点は6.20と推定された。また、予備実験として本cDNAをpGEX 4T-1発現ベクターに組換え、融合型酵素として大腸菌で発現させた結果、大腸菌抽出液にPAD活性が見出されたことから、本cDNAが間違いなくヒトPAD T4をコードするものであることが明らかとなった.次年度の研究では本cDNAを我々が確立したTwo-cistron pKK223-3発現ベクターに組換え、独立型の酵素して発現させ、その精製方法の確立と詳しい性質の解明ならびに特異抗体の作製を行う予定である。
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